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慰謝料増額や示談交渉など弁護士の役割を分かりやすく解説

交通事故の示談はどうやる?示談を有利にすすめ妥当な慰謝料を得る方法

よく晴れたある日のこと、あなたは道を歩いていて、前方不注意の車に跳ね飛ばされました。あるいは、車を運転していたあなたは対向車に衝突され、危うく命を落とすところでした。

あなたは諸々の手続きを片付けつつ、病院にも通いながら、加害者との交渉に臨もうとします。いわゆる示談です。ところが、肝心の本人は顔を見せようともせずに、保険会社の担当者を寄越してきたのです。

「そんな誠意のない相手との示談交渉など、お断りだ!」

怒りのあまり、あなたはそんなことを叫びそうになりましたが……。

さて、ここで被害者としてのあなたは、いかに振る舞えばよいのでしょうか。そもそも示談とは、誰を相手として、どのように進めていけばいいのでしょうか。

ここでは、交通事故の示談交渉の流れや示談を有利に進める方法、示談金の相場がいくらでどうすれば多く請求できるのか、といった点についてご説明します。

1.交通事故が起きてから示談までの流れ

交通事故の当事者は、互いに様々な損害を受けます。車両同士がぶつかれば壊れますし、身体には怪我も負います。仕事を休まざるを得なくなったり、入通院が必要となったり、後遺障害が残ることもあるでしょう。

そうした損害について、誰にどれだけの責任があり、いくらの損害賠償が必要なのか。それらを当事者や代理人が話し合って決めてゆくのが示談です。まずは事故の発生から示談までの流れを確認し、誰とどのくらい話し合うのかについて、みていきましょう。

(1)交通事故から示談までの注意点

事故が発生してから示談までの流れは、事故の重大さや規模などの個別事情によっても多少異なってきますが、だいたい以下の通りです。

  1. 事故が発生する
  2. 病院で診察を受ける
  3. (物損事故扱いだった場合)人身事故へと切り替える
  4. 治療を続け、症状固定へ
  5. (後遺障害がある場合)等級認定
  6. 示談交渉

示談が始まるまでの流れで、気をつけておきたいポイントがいくつかあります。まず、事故の発生後は速やかに病院で診察を受けましょう。これは、事故と傷病との因果関係を医師に確認し、診断書という形で残してもらうためです。

次に、物損事故から人身事故への切り替えです。物損事故とは簡単に言えば車や壁などの物しか壊れていない事故であり、人身事故とは人が負傷ないし死亡する事故のことです。

人身事故として警察に届け出ておかないと、保険から治療費や慰謝料が満足に出ない恐れがありますし、また物損事故では警察が「実況見分調書」を作成しないため、事故状況の証明ができず、後に「過失割合」でトラブルになりやすいからです。

なお、実況見分調書とは犯罪や事故が起きた際に警察が作成する書面で、交通事故の場合は事故の状況や、当事者及び目撃者の位置関係などが記されます。
また、過失割合とは事故の加害者と被害者の間で、どちらにどれだけの割合の過失があるかという問題です。

さらに、保険会社が「症状固定」を迫ってきても、安易に受け容れないようにしましょう。
症状固定というのは、そのまま治療を続けてもそれ以上の症状の改善が見られない状態を指します。
症状固定をしてしまうと、治療がそこで終了したとみなされ、治療費や慰謝料の算定で不利になる可能性があります。

(2)交渉の相手方

示談交渉の相手方は、多くの場合、保険会社の示談担当者となります。これは、加害者本人との直接交渉は感情的なトラブルになりやすいこと、また互いに相場や落とし所を詳しく知らなければ交渉がいたずらに長引きかねないことによります。

もちろん、加害者は交渉の代理人を自由に選任できますから、加害者の知人友人や勤務先の事故係が来ることもあります。ちなみに、報酬目的での示談交渉代理は、弁護士以外の者には禁じられています(弁護士法第72条)が、保険会社は一定条件の下に示談代行サービスの付与された保険契約を結べるので、加害者の代理人となれるのです。

したがって保険会社や弁護士以外の、非合法の事件屋のような代理人とは交渉を控えるようにしましょう

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
参考:弁護士法第七十二条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

保険会社の示談担当者は、年間何十件もの示談交渉を取り扱うプロです。相手の言う通りにしていると不利な条件で交渉がまとまってしまいかねないので、注意が必要となります。

(3)交渉に要する期間

示談交渉の開始から成立までに掛かる期間は、一般的に3~4ヶ月程度といわれています。事故や過失割合が複雑ではなく、証拠も十分に揃っている場合には数週間で示談が成立することもありますし、後遺障害がある場合は半年以上掛かることもあります。なお、示談金が振り込まれるのは、示談の成立からさらに1ヶ月ほど掛かります。

早めに示談金や損害賠償金を手に入れたいということもあるでしょうが、数週間から数ヶ月は掛かると見込んでおかねばなりません。

また、気をつけたいのが「時効」です。交通事故によって受けた損害の賠償請求権は、3年間で消滅してしまいます。弁護士に任せていれば気をつけてくれますが、自分で示談交渉を進めて長引いている場合には注意してください。

2.示談金の内容と手続書類

示談金」といっても、そこには様々な名目が含まれます。ここでは、示談金の内容と手続面の双方を確認していきましょう。

(1)示談金には何が含まれる?

示談金の名目として請求できる費用としては、主に以下の項目があります。

①治療関連費

薬代を含め、治療に掛かった費用の全てです。ギプスや松葉杖、義手義足を購入した場合は装具等購入費として含まれます。

②入通院費

入院や通院に掛かる費用の全てです。通院の際に交通費や付き添い看護費用が掛かる場合、それも含まれます。

③物損修理費

壊れた車の修理費用や代車代、レッカー移動に掛かった費用などが含まれます。

④通信費

警察や保険会社に連絡する必要があれば、電話代などが請求可能です。

⑤自動車・家屋等改修費

後遺障害などにより、自動車や家屋をバリアフリー化する必要が生じた場合には、それらの改修費も含めることができます。

⑥葬儀費

交通事故を原因として亡くなってしまった場合、葬儀やそれに関連する費用も請求できます。

⑦弁護士費用

示談の段階では、原則として弁護士費用までは相手方に請求できません。弁護士費用を請求できるのは、裁判にまで至ったときです。

しかし、加害者側が交通事故によって刑事事件の被告となっているケースでは、「加害者側の資産から被害者に賠償した」という実績を示すことで刑が軽くなることもあるため、相手方が弁護士費用の支払いに応じることもあります。

⑧慰謝料

慰謝料とは精神的苦痛を賠償するためのもので、交通事故の慰謝料には入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。

入通院慰謝料は治療期間ないし実際に通院した日数によって算定されます。後遺障害慰謝料は症状固定時に認定される等級ごとに金額が決まります。死亡慰謝料は本人及び一部の遺族に対して生じ、家庭での被害者の立場などによって金額が変わります。

⑨休業損害

治療中に得られるはずだった収入、賞与の減額分なども示談金に含められます。また、専業主婦や自営業者、事故時点で無職だった場合にも認められるケースがあります。

⑩逸失利益

治療期間中ではなく、事故による負傷や後遺障害がなければ将来にわたって得られるはずだった収入等も、示談金に含まれます。事故前の時点での収入や、将来にわたってどれだけの年数働けたかといった要素を考慮して金額を決めます。

(2)示談交渉手続きに必要な書類

以上のような費用を請求するために示談交渉を行うわけですが、その際に必要となる書類は以下の通りです。

①物損事故の場合

物だけが壊れた物損事故の場合は、あまり必要書類は多くありません。交通事故証明書、修理費の領収書ないし見積書、事故で壊れた車両などの写真、レッカー代などの領収書を用意しておきましょう。交通事故があったこと、及び交通事故に関係して当該出費があったことをそれぞれ証明できれば大丈夫です。

②人身事故の場合

他方で、人が負傷ないし死亡した人身事故では、必要書類がかなり多くなります。物損事故のケースに加えて、治療費や葬儀費、減少した収入の程度なども合わせて証明できるようにしなければならないからです。

交通事故証明書、事故発生状況報告書に加え、診療報酬明細書や通院に要したタクシー代などの領収書、給与明細書、源泉徴収票、副業や自営業であれば確定申告書の控えも必要となります。さらに、負傷した場合は診断書と後遺障害診断書、休業損害証明書も用意しておかなければなりませんし、死亡した場合は死亡診断書や戸籍謄本、除籍謄本が必要です。

事故発生報告書とは、事故の当事者や目撃者の位置関係といった、交通事故の発生当時の状況を記載した書類で、被害者が作成するものです。保険会社から書式を入手できます。
また、診療報酬明細書(レセプト)とは、健康保険組合へ医療機関が医療費を請求するため、処置や使用した薬剤を記載した書類で、医療機関窓口で請求できます。

後遺障害診断書とは、交通事故の後に残った症状を後遺障害として認定してもらうために必要となる書類で、医師に作成してもらいます。
休業損害証明書とは、仕事を休んだことによって生じた損害を証明するための書類で、一般に給与所得者(サラリーマン)が会社に作成してもらうものです。これも保険会社から送られてきます。

示談交渉に際してこれらの書類を用意しておかないと、各種費用の発生根拠が説明できないので、請求が認められないおそれがあります。気をつけましょう。

3.示談と裁判はどう違う?

今まで示談についてご説明してきましたが、そもそも示談と裁判とはどう違うのでしょうか。民事裁判で賠償金を得るのではなしに示談交渉をしたほうがいいのであれば、その理由とは何なのかが問題となります。

(1)示談と裁判の違い

示談とはあくまでも話し合いであり、裁判とは「争訟」、つまり訴訟を通じて争うことをいいます。示談においては双方が時に譲り合うことで合意に至りますが、裁判ではお互いの主張・立証を戦わせることになります。

示談はプライベートな場でも構いませんが、裁判となれば裁判所に出向かねばなりません。裁判官が原告と被告の主張と証拠を吟味するため、それなりの時間も掛かります。

(2)示談のメリット

実は、交通事故のうち人身事故についてみると、95%以上が示談によって解決しています。ほとんどが訴訟ではなく示談で解決しているのですが、これは示談ならではの3つのメリットがあるからです。

①手軽であるという点

裁判となればどうしても手続が煩雑になりますが、示談は自分と相手方が合意に至ればすぐに成立します。裁判よりも時間が掛からないことが多く、手続的にも簡易だといえます。

②費用面でも負担が軽いという点

裁判では、ほぼ確実に弁護士へ依頼することとなるため、印紙代なども含めて費用が多く掛かってしまいます。示談なら自分自身で交渉を行いさえすれば安く済ませることも一応は可能です。

③相手方は主に保険会社の示談担当者だという点

裁判では基本的に弁護士を相手取ることになるため、過酷な戦いを強いられます。ただ、保険会社の示談担当者も経験豊富なので、単身で交渉に臨むのはあまり得策ではないかも知れません。

(3)示談のデメリット

示談にもデメリットが3つあります。順にみていきましょう。

①交渉の心理的負担が大きいという点

ただでさえ交通事故の被害者は心身にダメージを受けていることも少なくないので、さらに交渉にまで神経を割かねばならないのはかなりの負担です。

②交渉が難航する場合もあるという点

特に被害者と加害者の双方が相場や過失割合といった専門的な知識を持ち合わせていなければ、お互いに水掛け論に終始し、いつまで経っても合意に至らない可能性があります。

③損害賠償や慰謝料の算定基準に弁護士基準を使えないという点

本人が単身で示談交渉を行う場合、民事訴訟を視野に入れたやり取りができず、法的な立証も難しいため、賠償金が高額になる弁護士基準を基礎とできないのです。保険会社が提示してくるのは任意保険基準ですから、請求できる賠償額はやや低いものとなってしまいます。

以上のようなデメリットを回避するためには、弁護士に依頼することです。確かに弁護士費用は掛かりますが、その分だけ賠償金も多く請求できれば損にはなりませんし、自分の保険に「弁護士費用特約」がついていれば300万円までの弁護士費用は保険会社が負担してくれます。

自ら交渉して精神をすり減らすことも、難航する交渉に頭を悩ませる必要もありません。示談を活用するには、専門家の手助けを借りるのも大事なのです。

4.示談交渉の際に気をつけたいポイント

示談交渉は確かに裁判よりは簡便ですが、それだけに注意が必要なポイントもいくつかあります。示談交渉の際に意識しておいたほうがいい事柄について確認しましょう。

(1)加害者の弁済能力

まず、示談交渉の前に、そもそも加害者には支払い(弁済)をする資力があるのかどうかは確認しておくべきです。いろいろと調子のいいことは言うのに、肝心の資産が全くないというのなら、合意は事実上無意味なものとなってしまうためです。

加害者が任意保険に加入しているかどうか、職業は何か、保有資産はどのくらいかといった点は最低限チェックしておきましょう。

もし加害者に支払能力も資産も乏しいようであれば、ローンを組んでもらう、保証人を立てるといった方法も検討しなければなりません。

(2)示談書の作成時における注意点

次に、示談書の作成時には、内容をしっかりと確認することが重要です。というのは、一度示談内容について合意してしまうと、話を蒸し返して示談を再度行うことができないからです。これは、もし合意した示談の蒸し返しができるとすればキリがなくなるためです。

示談書に署名・捺印すると、やり直しはできません。特に保険会社は任意保険基準を用いた割安の示談金を提示してきますから、慌てて合意すると損失を被る可能性が高くなります。

ただし、一部の後遺障害については例外的に、後から追加で賠償金や慰謝料を請求することも可能となる場合があります。示談後に後遺障害が出てきたというときは、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

(3)示談内容に納得がいかない場合

示談交渉で難航するのは、示談金額を決定する要素の1つである過失割合について、双方の意見が食い違っているケースです。過失割合とは、前項にてご説明した通り、交通事故の加害者と被害者のどちらにどれだけ過失があるかという割合です。

自賠責保険の保険金や自賠責共済の共済金の支払基準でも、被害者に重大な過失がある場合は2~5割程度の減額を行うこととされています。

参考:平成13年金融庁・国土交通省告示第1号(支払基準)

過失割合分の相殺(過失相殺)を保険会社が主張してきた場合、示談交渉は長引く傾向にあります。過失相殺とは、裁判所が被害者の過失の分だけ損害賠償額を減らすことです。
示談交渉が難航するようであれば、調停の申立てを行う、交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターの示談斡旋申立てを行うといった方法があります。

5.示談金を増やすための方法

最後に、示談金を少しでも増やすにはどうすればいいのかをみていきましょう。これには自分自身でできる方法と、弁護士に任せるべきものがあります。

(1)自分でできる方法

交通事故が起きたら、なるべく早く医療機関で医師の診察を受けましょう。できれば事故の当日、遅くとも翌日までには行っておきたいところです。そして診断書を出してもらいましょう。これは治療費や慰謝料などの請求に必要となります。

入通院に使った費用については、全て明細書や領収書を受け取り、保管しておくことが大事です。上でご説明したように、示談金には交通事故による関連出費がほぼ全て含まれるため、支払いをしたという証明が必要なのです

これらに加え、主張すべき点をきちんと主張することも重要です。たとえば入通院慰謝料は基本的に治療期間によって算定されますが、傷害の程度が重大だった場合は2割ほどの加算があります。

また、後遺障害に関しては、保険会社が早めに示談を求めてきても、症状固定が済んでから応じる旨を伝えるべきです。これも治療費や後遺障害慰謝料の請求額と関わってくるため、流されないようにしましょう。

(2)弁護士への依頼

弁護士に任せることで示談金の増額に役立つ場面とは、大きく分けて3つあります。弁護士基準による損害賠償額の算定、過失割合の交渉、そして後遺障害の等級認定です。

まず、弁護士基準は損害賠償額の算定基準のうちでもっとも高額となるものであり、弁護士に付いてもらわないと採用されません。賠償金の査定と主張・立証は、弁護士基準に基づいて行ってもらうようにしましょう。

次に、過失割合を保険会社が大きめに主張してきた場合、対抗できるようにしておかなければなりません。弁護士に任せれば、適切な過失割合を主張してくれるので、示談金の不本意な減額を受ける心配が要りません。

さらに、後遺障害の等級認定は、後遺障害診断書の用意がカギとなります。適切な等級認定を受けることにより後遺障害慰謝料と逸失利益の請求が可能となるので、手続を弁護士に任せれば安心です。

(3)弁護士費用特約

示談金自体を積極的に増やす方法ではありませんが、弁護士に依頼した場合、どうしても弁護士費用が掛かってしまいます。このとき、弁護士費用特約付きの保険契約を保険会社と結んでいれば、300万円までの弁護士費用を保険会社が負担してくれます。

結果として手元に残る示談金も多くなるので、もし弁護士費用特約が付いているなら積極的に活用するといいでしょう。

まとめ

交通事故の紛争は、そのほとんどが示談によって解決されます。それだけ示談をどう進めるかは重要なのです。

事故の直後から始まり、示談交渉を有利に進めるために採れる方法は様々にあります。交通事故の案件を数多く手掛けてきた弁護士に依頼すれば、示談金の増額を見込めるケースもありますので、まずは一度相談してみることをお勧めします。

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