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慰謝料増額や示談交渉など弁護士の役割を分かりやすく解説

過失割合の決め方とは?割合を減らし損害賠償金を多く得る方法

交通事故の被害に遭った場合、お互いの落ち度が問題となります。落ち度とは、たとえば余所見をしていた(前方不注意)とか、お酒を飲んでいた(飲酒運転)とかのように、何らかの責任を問われる事情のことです。この落ち度のことを、専門用語では「過失」といいます。

多くの場合、交通事故には被害者と加害者が存在しますが、加害者だけに100%の過失があるケースばかりではありません。中には、「加害者は確かに悪いけれど、被害者にも落ち度はあった」ということもあるのです。しかし被害者側にも過失がある場合、一般的には損害賠償金も低く抑えられてしまいます。

そこで今回は、過失割合とは具体的にどのようなもので、どう算定するのか、また被害者がなるべく多くの損害賠償金を手に入れるにはどうすればいいのか、といった点についてご説明します。

1.過失割合とは

交通事故に複数の当事者がいた場合、事故の発生と結果に対する責任が誰にどれだけあったのかが問題となります。この責任の割合を、「過失割合」といいます。交通ルールを完全に遵守していたにもかかわらず一方的にぶつけられたというなら、事故の発生や結果に責任は問えませんし、過失割合もゼロと見なされるでしょう。

しかし、「Aさんは余所見、Bさんは信号無視をした」というように、両当事者に責任があることは少なくありません。こうした場合、どちらかが完全に加害者で、他方が被害者だという単純な話ではなくなります。お互いに加害者でもあり、被害者でもあるわけです。

そこでどちらにどれだけの責任があったのか、すなわち過失割合が問題となります。
具体的には、

「過失割合をどう決めるのか?」
「相手方に提示された過失割合は妥当なのか?」
「相手方の示した過失割合に納得できないときはどうすればいいのか?」

などの形で問われることになるでしょう。

2.過失割合と損害賠償の関係

(1)交通事故被害と損害賠償

交通事故が起きると、様々な被害が生じます。怪我をすれば病院へ通い治療を受けなければなりませんし、車も傷つき壊れるでしょう。場合によっては仕事も休む必要があります。

これらの治療費や通院費、車の修理代や買い替え代、仕事を休んだときの損失の穴埋め(休業補償)、さらには慰謝料に至るまで、全ては損害として相手方に賠償請求が可能です。事故の被害が重大であればあるほど、得られる賠償金額は多くなるのが通常です。

(2)「過失相殺」によって損害賠償金が減らされる?

ところが、過失割合が大きければ大きいほど、損害賠償金は減らされてしまいます。なぜなら「過失相殺」があるからです。過失相殺とは、複数の当事者にそれぞれ過失が認められる場合、その過失の範囲で賠償金額を打ち消し合おう、という考え方です。

たとえばAさんがBさんに1000万円貸していて、同時に100万円借りているという場合、Bさんに1000万円を返してもらってから改めて100万円を返す、というのは二度手間です。そこで最初から100万円分を打ち消して、AさんがBさんから900万円を返してもらうことでチャラにしよう、というのが相殺です。つまり、自分に一定の過失割合が認められるというのは、相手に対して借りがあるのと同様なのです。

(3)「全体からの割合での相殺」が持つ意味とは

注意すべきは、過失相殺が賠償額について「全体からの割合での相殺」だという点です。例として、以下のようなケースを考えてみましょう。

  1. 損害の総額が300万円
  2. 損害の内訳は慰謝料100万円、治療費200万円
  3. 過失割合は「自分:相手=3:7」

この場合、慰謝料は3割を過失相殺し、70万円受け取れるように思えます。しかし、相手の保険会社が治療費200万円を全額支払い済みだった場合、受け取れる総額が210万円(300万円の7割)なので、慰謝料としては残り10万円分しかもらえないことになるのです。示談をしてみたら直接受け取れる額は意外と少なかった、ということもあります。よく確認しなければなりません。

3.具体的な過失割合の出し方

過失割合がどのように決まるかで、もらえる損害賠償額は大きく変わります。そこで過失割合の判断主体、判断の流れ、判断に影響するポイントについて確認し、過失割合の具体的な出し方をみていきましょう。

(1)過失割合の判断主体は誰か

交通事故や裁判には事故の当事者だけではなく、警察、保険会社、裁判所、そして弁護士といった様々な存在が関わります。この中で過失割合を判断するのはいったい誰なのでしょうか。

①事故の当事者

本来、当事者同士の話し合いで解決できれば望ましいものです。しかし、争いなく合意に至るのは稀ですし、そもそも当事者が単独で示談交渉の場に直接現れることもあまりありません。検討から外して構わないでしょう。

②警察

警察には民事不介入の原則があるため、事故の詳細な資料は作成しても、過失割合の認定や決定には関わりません。ただし、「実況見分調書」(人身事故時に当事者立会のもと警察が作成する書類)が過失割合に影響を及ぼすことは考えられるので、立会の際は気を付けるようにしましょう。

③保険会社

当事者に代わって交渉の席につく保険会社はどうでしょうか。一般的には、加害者の加入する保険の保険会社が過失割合を通告してきます。しかし保険会社は法律の専門家ではなく、また一営利企業ですので、必ずしも公正な過失割合を算出してくれるとは限らないのが現実です。

④裁判所

そこで、最終的に裁判となった場合、裁判所が決定することとなります。民法第722条1項に、被害者に過失があった場合、裁判所はそれを踏まえて損害賠償額を定められる旨が定められているからです。とはいえ、裁判所も勝手に過失割合を認定するのではなく、過去の交通裁判における裁判例を参照し、個別の事情を汲んで決めます。

なお、裁判所による判断の集積は、判例タイムズ社から刊行されている別冊判例タイムズ38号の『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]』に掲載されています。

参考:民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]

⑤弁護士

ただ、いちいち裁判まで至らないと納得のいく過失割合が出ないのでは、被害者にとって酷です。ここに、交通事故裁判の経験豊富な弁護士へ相談することの意味があります。示談交渉に弁護士が同席し、裁判例を踏まえつつ被害者に有利な過失割合を判断してくれるわけです。

(2)過失割合の判断の流れ

発生した交通事故を類型化し、類型ごとの基準に当てはめて基本過失割合を出してから、個別の事情によって修正してゆきます。まずは類型について見ていきましょう。事故の当事者を、「歩行者」「自転車」「二輪車」「四輪車」に分けます。

そして、

  • 歩行者と自転車/二輪車/四輪車
  • 自転車と二輪車/四輪車
  • 二輪車と四輪車
  • 二輪車/四輪車同士

という具合に、何と何の事故なのか、その組み合わせで類型化するのです。一般に、交通弱者と捉えられる歩行者が優先され、その次に自転車、二輪車が優先されます。また、四輪車同士では同程度の責任と判断されます。これに加えて、「交差点の種類」や「高速道路での事故」が類型として設定されています。

(3)過失割合の判断に影響するポイント

もちろん交通事故の具体的態様は様々ですので、類型の修正もかなり細かく行われます。この修正に影響するポイントとしては、以下の要素があります。

  • 信号の色
  • 道路の幅
  • 衝突の仕方
  • 当事者の年齢
  • 当時の明るさ
  • 天候や路面状況

たとえば赤信号なのに交差点へ侵入し、そのまま衝突したケースなら、信号無視をしたほうに過失割合は多く認められます。あるいは、狭い道路から出てきた車と広い道路を走っていた車が衝突したケースなら、狭い道路から出てきた車のほうが過失割合は多くなります。基本的に、道路状況と交通ルールとの兼ね合いで、より気を付けるべきでありながら注意を怠った側の過失割合が多くなると考えましょう。

(4)過失割合の算定の例

代表的な交通事故のケースから、具体的に過失割合がどう算定されるのかを確認しておきましょう。

①青信号の交差点における右折車と直進車の衝突

交差点が共に青信号だった場合、右に曲がろうとする車と、真っ直ぐ進んできた車が衝突する事故はよくあります。道路交通法第34条では、交差点での右折車は直進や左折する車両の進行を妨げてはならないと定められているため、この場合は右折車に大きな責任があるといえます。他方、同法第36条4項では、直進車であろうと交差点内では安全な速度で走らなければならないとされているため、直進車にも一定の責任はあります。

これらを考え合わせた上で、こうしたケースでは基本過失割合が「右折車:直進車=8:2」とされています。ここから、たとえばウィンカーを出していなかったとか、スピード超過だったとかいった事情を加味して5~20%ほどの修正が加えられ、最終的な過失割合となります。

②駐車場における歩行者と四輪車の衝突

スーパーなどの駐車場で、駐めようとしていた車と歩行者とが衝突する事故も、頻発する事例の一つです。駐車場は人通りが多いため、車両を運転する側は注意を払うべき義務があります。他方、歩行者の側としても車に十分気をつけて歩かなければなりません。

そのため、こうしたケースでは基本過失割合が「四輪車:歩行者=9:1」とされています。修正要素は、たとえば双方の不注意の程度の大きさなどであり、具体的事情に応じて過失割合は上下します。

4.過失割合を減らすには

黙っていても、誰かが意を汲んで過失割合を減らしてくれることはありません。過失割合を減らすには、自分から主張しなければならないのです。では、何をどうやって主張すればいいのでしょうか。

(1)主張すべきこと

上でご説明したように、過失割合は事故の状況を基に決まります。したがって、事故の状況の中で自分に有利な事実を主張しなければなりません。主張するとは、要するに「証拠として残す」という意味です。たとえば、相手の車が信号無視をしていた、運転中にスマートフォンを操作していた、夜なのにライトを点灯していなかった、といった事実があれば、きちんと警察に説明し、実況見分調書などに証拠として残してもらうようにしましょう。また、目撃者がいる場合には、連絡先を伝えて証人となってもらえるように頼むといった行動も大事です。

さらに、事実だけではなく法律論からの主張も重要です。過失割合の算定の具体例でも示したように、車両に関する交通ルールは主として道路交通法で定められており、それを前提として理屈を組み立てる必要があるためです。

(2)主張の方法

事実や法律論の主張は、一定の手続に従って行わなければなりません。具体的には、示談・調停・裁判外紛争解決手続(ADR)・訴訟が挙げられます。

①示談

示談」とは、相手との話し合いによって過失割合や損害賠償額などを決めることです。示談交渉で決まった内容は、いわゆる和解契約のようなものとして、当事者を拘束します。ただし、交通事故の場合は被害者と加害者が直接やり取りをするというより、互いの保険会社の担当員が話し合うケースがほとんどです。

②調停

示談が纏まらなかった場合や長期化しそうなときに、裁判官を含めた調停委員が当事者から事情を聴き取り、互いの妥協点を探っていく話し合いが「調停」です。調停委員という第三者が介入する分、一方的な展開にはなりにくく、また冷静に意見交換ができるという性質を有しています。

③裁判外紛争解決手続(ADR)

これも示談が纏まらなかった場合などに活用されるもので、弁護士などの専門家が介入し、和解の斡旋をしてくれることをいいます。これを行ってくれるADR機関は複数ありますが、中でも「交通事故紛争処理センター」と「日弁連交通事故相談センター」がよく知られています。機関の利用自体は無料で、裁判よりは迅速に進むというメリットがあります。

④訴訟(裁判)

損害賠償の額や過失割合を裁判で争う場合、「民事裁判」となります。民事裁判とはもっぱら私的な法律関係を扱う裁判をいい、刑事事件を扱う刑事裁判とは異なるものです。
扱う額(訴額)が60万円以下なら「少額訴訟」、すなわち通常の訴訟に比べて簡易迅速さに特化した裁判手続を用います。また140万円以下の場合は「簡易裁判所」(日常生活上で生じる軽めの民事事件・刑事事件を扱う裁判所)に、それを超える場合は「地方裁判所」(一定の地域の法的紛争を取り扱う、原則として第一審の裁判所)に対して訴えを提起します。

訴額に応じた収入印紙を用意し、また必要に応じて出廷しなければならないなど、費用や時間、労力が掛かります。訴訟の途中で和解となるケースも珍しくありません。これらの方法によって、自分に有利となる事実や法律論を主張することが、過失割合を減らす方法です。

5.過失割合に納得できない場合

(1)何に納得できないのかを整理する

具体的には何に対して納得できないのでしょうか。相手が主張してきた事実が誤っている場合もあるでしょうし、見方や解釈がおかしいこともあるでしょう。相手にも非があるのに、それには一切触れず都合のいい主張をしていることもあるかも知れません。

まずは、自分が何を納得できないのかを整理しましょう。その際には、資料と照らし合わせて確認することをおすすめします。上掲の判例タイムズ社による『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版]』や、ドライブレコーダーの画像など、第三者にも説明できるような情報源の存在が大事です。

(2)弁護士に相談する

自分に有利な事実とは具体的にどんな事実なのか、法律論に基づく主張とはどう行うのか、といった点を調べて理解するのは大変です。そこで、弁護士に相談するという手段があります。交通事故事件を数多く手掛けてきた弁護士なら、個別の事件に対応した基本過失割合も知っていますし、修正要素としてどういった事実を主張すれば有利となるかも理解しています。もちろん、道路交通法にも通じており、適切な事実の主張と穴のない法律論の主張を合わせて行えるでしょう。

また、弁護士への依頼は費用が掛かりますが、加入している保険に「弁護士費用特約」という特約がついていれば、弁護士費用を賄えることもあります。弁護士費用特約とは、任意保険のオプションとしての特約であり、交通事故事件に関する弁護士費用や相談料を、保険会社が300万円を上限として負担してくれるというものです。自分だけで示談や裁判に臨んでも、相手方の保険会社や弁護士に押し切られ、不利な過失割合が認定されてしまう可能性があります。できれば、事故が起きてからなるべく早めに弁護士に相談しておくといいでしょう。

まとめ

交通事故の過失割合は、損害賠償の全体額との関係で過失相殺されるため、非常に大きな意味を持ちます。その一方で、過失割合の基本的な考え方まではわかっても、具体的な修正要素や主張の仕方は法律や裁判例も絡んでくるため、専門的な話となります。相手方や保険会社が示してきた過失割合に納得できない、自分の事故ではどうなるのかがわからない、といった方は、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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